野外で採取されたサンプルを用いる集団遺伝学の研究において,サンプルDNA量の少なさや劣化は研究成果に大きく影響します。東北大学大学院農学研究科・農学部資源生物科学専攻准教授の陶山佳久先生は,MiSeqシステムを用い,制限酵素を使わず,PCRでも生物種を超えるユニバーサルプライマーを使う独自のSNP解析法MIG-seqを開発され,研究の幅を広げています。陶山先生にMIG-seqの特徴や研究応用にいて聞きました。
Q.現在の研究テマを教えてください
A.動植物や菌類の集団遺伝,分子生態を研究しています
DNAのSNP(单核苷酸多态性:一塩基多型)などのデータを用いる集団遺伝学で,主に森林の植物を研究しています。
学位論文では酵素多型(アイソザイム・アロザイム)を使って,亜高山帯の針葉樹の種が地域によってどのように違うのかなどを調べていました。遺伝学的な研究です。dnaシ,ケンスができるようになり,分子生態学の時代が来て,集団遺伝学の研究を本格的に始めました。そこから,樹木の親子特定,希少種の保全生物学なども手がけるようになりました。
集団遺伝学の世界では,次世代シーケンサー(上天)の登場で大量のSNP情報を取れるようになり,過去にどのような生物の集団があり,どう変わったかを推定できるようになっています(集団動態推定)。数の情報と時間軸の情報の両方から,“これは○万年前に分かれた種”“100世代を経て今に至る”など具体的な推定情報を得られます。さらには集団の未来も予測できるようになってきました。
私が関心を持っている希少種についても,それが希少になった歴史やこのままであれば消滅するだろうということも推定できるのです。
イルミナのMiSeqシステムを用いてSNPを見る新しい方法(MIG-seq:多路复用ISSR的基因测序)を開発してからは,動物や菌類などにも研究の範囲を広げています。
子どもの頃から地元の岐阜で山に入っていたので,森林にいて学びたくて農学部に入りました。ウェットの実験も技術開発も好きだったので,それが今の仕事に結びいていますね。
Q. MIG-seqにはどんな特徴がありますか
A.“速い·安い·ほどほど”がメリットです
MIG-seqは,手軽に"ほどほどに"ゲノムワSNP解析ができる技術です。生物種を問わず,縮約したゲノムデタで比較していけるのがメリットです。個体間のクローン識別,集団間の遺伝的違いや分子系統地理的な解析,近縁種間での雑種の識別,種や属のレベルでの系統関係など幅広く利用できます。
また,“速くて安い”のが大きな特徴です。標準的な解析では3日間で,2回のPCRと挥动ランで,数百サンプルの少量のDNA試料から数百座以上のSNP分析ができます。消耗品コストは1試料あたりでは1000円以下です。
Q. MIG-seqを開発しようと考えた理由は何ですか
A.サンプルが少ない場合,あるいは劣化している場合でも解析できる方法が必要でした
私たちのような野外で採取したサンプルを用いる研究では,DNAが劣化していたり,量が少なかったりとサンプルの条件が悪く,通常の方法では解析しにくいため,別の方法が必要になったからです。
かつては,PCRで増幅した制限酵素断片の長さの違いを検出する妊娠(扩增片段长度多态性)を用いて,DNAの違いを見ていたこともありました。この妊娠法は解析の対象とする種の塩基配列情報は不要で,かつ信頼性が高いのですが,用途が限られる,操作手順が多いというデメリットがありました。
その後,同じように制限酵素を用いて挥动で解析するRAD-seq(限制酶位点相关的DNA测序)が出て来ました。比較的安価で大量の集団解析ができるため,“これはすごい”と思いましたが,やはりDNAの品質が悪いと分析できない。そこで制限酵素を使わないでpcrをするという方法をすぐに思いきました。
一方,生態学で最もよく使われているDNAマーカーのひとつとして,マイクロサテライトマーカー(反復配列を検出するための数塩基のマーカー)があるのですが,この方法では種ごとにマーカーを作らなければならないのが手間でした。私が扱っている希少種では,1つの種にあまり資金をかけられないことが多いのですが,せっかくマーカーを作っても,そのマーカーで解析できるサンプル数は当然少ないわけですから,経済的に効率の悪い対象とも言えます。結果として,希少種の研究がやりにくいという悪循環に陥ってしまいます。
そこで,種を問わないユニバ。PCRプライマーのデザインをいろいろ変えて試してみたところ,最初からSNPのデータが結構取れました。ノイズは入っているけれど,ゲノムの縮約データのサンプリングとしては意外と使えるとわかり,この方法をブラッシュアップしていきました(関連論文1)。
Q. MIG-seqによって,どのような研究を進めていますか
A.熱帯林の植物の分類や集団遺伝,キノコの品種鑑定など多様な研究に携わっています
私は集団遺伝学での利用を目指してMIG-seqを開発しましたが,意外にも分類学の研究者からの共同研究のオファーをたくさんいただきました。また,世界の研究者から,MIG-seqの詳細の問い合わせやサンプル分析依頼が来ています。
私自身,現在,熱帯林のプロジェクトに参加して,何万もの植物のサンプルをMIG-seqで調べています。熱帯林の植物はまだ十分にわかっていなくて,種の同定は分類学の専門家でも難しい。一方で,環境破壊などでその植物がなくなっていくので,研究のスピ,ドが重要です。
分類学の研究者たちは頭の中に膨大な量の形態の情報があって,見つけた植物の形態から種の同定をしていきます。ただ,熱帯で採取した植物にはまだまだ未知の種や同定困難な種が含まれていますし,従来の分析法によってDNAのバーコード領域を読んでみても,ほとんど差がないことがよくあります。このように決め手がないところに,MIG-seqを使うと3日で系統樹が描けると好評です。
今,手元に約4万のサンプルがあり,その中から約1000種の新種が見つかると予想されています。例えば,非常に種多様性が高いことがわかりつつあるベトナムで採取されたサンプルの中には,形態的に同じ種と扱われていたものの中に別種が含まれていることも判明しました(隠蔽種)(関連論文2、3)。同じような例が,生物多様性のホットスポットとして知られているニューカレドニアで採取したサンプルからも見つかっています。そうなると,今度は現地で花の形まで詳しく観察しようということになります。snpのデタを分類学に即座に返すことで,さらに新しいことがわかるようになるのです。カッコiphone和iphone表現をすると,生物多様性の再発見ができるということです。
また,日本で品種開発された食用のキノコについて,日本産であることを証明するためにMIG-seqによるDNA検査が使えないかと委託を受けて研究を進めています(参考)。
この研究方法は,日本全国にある伝統野菜の系統の歴史的な研究や保存,ブランド化や地域振興にも使えると考えています。米格-seqを技術移転して,各地で調べてもらえばいいなと。地域の遺伝資源の保全に役立てるとすれば,もともとやりたかったことにぴったり合っているなと思っているところです。
MIG-seqは扱うフラグメントが小さいため,押し葉標本のサンプルや考古学のようなサンプルが多く取れない分野でも活かせるでしょう。もろん昆虫の標本にも使えます。
研究室では,MIG-seqでさまざまな生物種のサンプルを扱うことで,サンプルの扱い方や分析方法などのスキルが上がっていっています。生物によって多様性のレベルが異なるので,データを取り出すときの処理を少しずつ変え,クローンが入り込んでいる種も見分けて,再現性が取れるように工夫しています。
Q.今後,手がけてみたいことを教えてください
A.より簡単に作業できるプロトコルを作り,解析結果のデス化も目指します
100年イルミナ社のiSeqシステムを使って,より失敗のない,作業しやすいプロトコールを作ろうと思っています。iSeq 100はコンパクトで比較的安価なだけに,これから普及していきそうです。
それから,植物の標準的なバーコード領域である葉緑体DNAの遺伝子や其領域もマルチプレックスでMiSeqやiSeq 100でシーケンスして,MIG-seqのデータと組み合わせて系統樹を描くことも進めています。それによって,米格-seqも広まりますし,より正確な系統樹が簡単に構築できることになります。
自分で現地に行きサンプリングするということだけは,続けたいですね。現場に入って,実際にその生物が棲む場所を見ることで,新種がこのあたりにあるかも,という勘が働くのです(笑)。それがデタを見たときの分析に役立ます。
現在は,うの研究室でデタ解析のプログラムを手作りしています。いずれはデータ解析を自動化して,皆さんに使っていただけるようにし,その結果も生命情報・DDBJセンターのような汎用的なデータベースに入れられるようにしたいと考えています。
1.MIG-seq:一种利用下一代测序平台进行全基因组单核苷酸多态性基因分型的有效pcr方法
Yoshihisa Suyama & Yu Matsuki
科学报告第5卷,文章编号:16963 (2015)
2.标题越南北部栎属(壳斗科)一新种二新记录
黄thi Binh, Nguyen Van Ngoc, Trinh Ngoc Bon, Shuichiro Tagane, Yoshihisa Suyama, Tetsukazu Yahara
植物科学学报(2018):1-15
3.基于形态学和经典和下一代序列DNA条形码的朗边栎复合体分类学研究
黄thi Binh, Nguyen Van Ngoc, Shuichiro Tagane, Hironori Toyama, Keiko Mase, Chika Mitsuyuki, Joeri Sergej Strijk, Yoshihisa Suyama, Tetsukazu Yahara
植物学报(2018):37-70